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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

「いいとも」

天風は軽く云ったもののちょっと困った。彼の懐には弐拾円しかないので女に拾円くれてやるとすると後にはもう拾円しか残らない。それでかしくへ往って鰻を喫えば、そこの払いは出来るが、後は自動車賃も払えないことになる。できることなら一直線にお茶の水なり新橋なりに往きたいと思ったが、その場合女の云うなりになるより他にしかたがなかった。彼はすぐ鰻屋の払いさえ済ませば、後は朝になって電話をかけようと、神田で雑誌を出している知人から金を借りることを考えながら、左の手首に附けた腕時計に眼をやった。

「十一時十分だ、ほんとうに来るかね」

「きっと往くわ」

「じゃあ、往って待ってる、ここの勘定をしてもらおうね」

「会計」

お葉は正面の寒水石の売台の前へ往って、そこから小さな書附を執って来て天風の前へ置いた。天風は五十銭銀貨を三つばかり置いて起ちながらだめを押した。

「十一時四十分だね」

「そうよ」

天風は出口にいた二三人の女給から心安だてなあいさつを受けながら外へ出た。夜店の終った広い歩道には、もう往来する者もなくなって寒さのみが歩いていた。そこは電車の交叉点になった広い十字街頭で、右側の停留場には三人の乗客がインバの肩をすぼめて黙々と立っていた。