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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

天風は歩道をつき切って右の方から来た二台の自動車をやりすごしながら、急いで街のむこう側に往き、そこの停留場のその時左の方へ動きだした電車の後から歩道にあがったが、喉に故障のある彼は寒い風の中を急いで歩いたので胸のあたりが苦しかった。彼はちょっと立ち停って呼吸を調えたが、その時背が緑青色をした腹の白い小さな蛇が神経の中にちらちらするとともに、物をうんとつめていた胃の中がぬくぬくとなって、もう鰻屋に往くのが厭になってしまった。それはその日の夕方、己が夕刊の閑文字として連載している店頭のぞ記と云うような記事の中に、そこのことを書いてやることにして、写真機を販売している店の番頭から弍拾円の小遣をもらったうえに、支那料理を喫いに往ったところで、そこの主翁が支那料理の話をしたあげく、背が緑青色をした腹の白い小さな蛇を浸けた酒の罎を持って来た。一ぱし支那料理の判るような顔をして、蛇料理がどうの、魚の翅がどうの、燕の巣がどうのと云っていた彼は、番頭の手前もあるし、一ぱい飲んで、「佳い匂だ」と云っていたが、気もちがわるくてしかたがなかった。その背の緑青色をした白い小さな蛇は、もたれ気みになっている支那料理の胃の中をかきまぜて、それが背の黒い腹の白い鰻につながったのであった。