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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页
広栄の頭を掠めたものがあった。広栄は定七に眼をやった。
「汝は、も一つお神酒とお洗米を持って来てくれないか、お倉の方へな」
「よろしゅうございます、すぐ持ってまいります」
「それじゃ、俺は前へ往ってるから」
「それじゃすぐ持ってまいります」
定七はすぐ腰をあげて出て往った。広栄も傍の松葉杖を引き寄せて体を起し、故障のある左の脚を引きずるようにして、玄関と庖厨の入口を兼ねた古風な土間へおり、そこにあった藤倉草履を穿いて、ばったの飛ぶようにぴょいぴょいと裏口から出て往った。
出口に花をつけた桐の古木があった。羽の黒い大きな揚羽の蝶がひらひらと広栄の眼の前を流れて往った。
「蝶か」
広栄はやがて土蔵の前へ往った。広栄の往った土蔵は真中の皆古い中でも一ばん古い土蔵であった。右の土蔵はお高と平吉が入っている土蔵。広栄は松葉杖に縋って休みながら右側の土蔵の口へ眼をやった。
「お待たせしました」
定七は一方の手に神酒徳利と洗米の盆を乗っけた三宝を持ち、一方の手に土蔵の鍵を持っていた。
「三宝を持とう」
戸を啓ける間は持たなくてはならなかった。定七は三宝を広栄にわたして戸を啓けにかかった。