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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

小柄な男は右の手を握ってから人さし指ばかりを開き、それを己の鼻端に触るように持って往ったが、それは非常にすばしこいやり方であった。

「痴、お前だって、これじゃないか」

新吉は右の指端を右の眼の傍へ持って往って、人さし指で目頭をちょとおさえた。

「痴」

「だって、旦那がそう云ってたぜ」

「へッ、痴にするない、御人体がちがってらあ」

「その御人体でせっせと捜すが好いや」

「お前も捜しな」

二人は笑い笑い擦れ違って歩いた。新吉はそうして仲間と別れながら、己の挙動を背後から見られているように思ったので、三足ぐらい歩いてふり返った。茶の中折は池の傍にある交番の前を歩いていた。新吉は安心してまた人をじろじろと見ながら歩いた。歩きながら彼奴は俺以上の悪党の癖に、巫山戯たことを云やがると思った。彼はちょと舌うちした。

新吉の眼前をいろいろの女が掠めて往った。彼はその中からおずおずした物おびえのある顔を見逃すまいとした。人をくったような年増女の顔、すました女学生の顔、子供を負ったどっかにきかぬ気の見えるお媽さんのような顔ばかりで、彼の望んでいる顔は見当らなかった。

それは風の無い暖な晩であった。