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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页
十分おきに往来している電車の響と発車を知らす笛の音が聞えて来た。広い街路へ折れて右側の人道を往くと、二人伴れの壮い男が前から街路の真中を歩いて来た。二人は酒に酔っているように高い声で話をしていた。菊江は平生のようにその酔っぱらいの声が厭わしくなかった。二人伴れの男の後から二人の少年を伴れた女が来た。
菊江は雑貨店のつぎの野菜店へ入ろうとして、ふと見ると、その野菜店の正面になった左側のカフェーの下にも二階にも客が数多ある容子で、何か口ぐちに云うのに交って女の声もしていた。菊江はふとあの中にあの人もいるのではないかと思った。それは同じ会社にいるそこの電車のむこうにいる壮い男であった。菊江はもしあの人であったなら、己がこうして夜おそく一人で用足しに来ていることを知ったなら、きっと門口まで送ってくれるだろうとおもった。菊江は白い小さな歯をした青年の口元を浮べたところで、己の足がもう野菜店の店の中へ入っているので、驚いて三個の褐腐を買って、それを手巾に包んで出た。
菊江の眼にはすぐまたカフェーの燈が見えたが、立って見ているのも気がとがめるので、そのまま引返しながらまたあの青年のことを考えていたが、三叉路に近くなるに従ってその考えは薄らいで来た。