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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

あった。

(それにしてもこの馬はどうだ)

またふふうと云う数疋の鼻息がした。彼はまた眼をやった。右側にも左側にも二つ三つの顔が浮いていた。

(とにかく、牧場があるなら、番小舎があるだろう)

とにかく往くところまで往ってみようと思いだした。彼はまた歩きだした。そして、眼をやると馬の顔が浮いており、耳をたてると鼻息がするのであった。彼はやや気もちがおちついて来た。彼はビールか水が一ぱいやりたくなった。熱い日本酒のこともそれとともに思いだした。

(えらい処へ来たものだ)

彼は早くそこを出たかった。彼は前へ眼をやった。そこに明るい燈を見つけた。

(家があるぞ)

彼はうれしかった。彼は急いで燈のある方へ往った。そこに一軒の家の袖垣のような低い生垣の垣根があった。その生垣越しに縁側が見えた。

(牧場の主人の家だろうか)

どこでもいいから早く往って他へ出る路を聞こうと思ったが、彼はそれよりも人の顔を見て人の声を聞きたかった。彼は長い間人のいない世界にいたようで人がなつかしかった。そこは瀟洒な演戯の舞台に見るような造作で、すこし開けた障子の前に一人の女が立っていた。それは三十前後の銀杏返のような髪に結った女であった。