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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

トランクを下げて黒っぽい洋服を着た高子が、息せききって家の前の道を上ってくるのを、千吉が一ばんに見つけ、

「おお、来た、来た」と歓声をあげた。

「すまん、すまん」といいながら高子は家の中へかけ上り、大急ぎで着がえをすると、顔も洗わずに一行に加わった。岡山回りで汽車から船に、船から自動車へ乗りついで、やっと間に合った長旅の疲れで眼の下にくまができていた。来るだけの者が皆集ったということの喜びで、一行の気持は何ということなくからりとしていた。花や、水桶をさげた姉妹たちのほかに正太郎が紋付袴で胸をのけぞってゆくのに並んで、小さい躯の千吉も袴はつけていないが丈の長い羽織を着、供え団子のお華束を両手で捧げるように持って、年寄りじみた歩き方で続いた。そのほか二三の親類の中には友吉爺さんの杖をついた姿もまじっていた。友吉爺さんはあだ名をくしゃみのおっさんといわれていて、おっさんがくしゃみを始めると、とめ度がないほどつづき、大きなそのくしゃみは畑にいる時は谷を越えて家々にまで響いてきて村の人たちの笑いを誘い、夜朝の寝床の中ででも始められようものなら近所じゅうはそのために目を覚すのであった。