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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
「こんなもん買わないでえいのに、使えへんのに」
八重が押えつけるような声を出すと、重吉は幾分先刻からもうすでに自分もそれを感じていたような顔つきで、
「お前ら、年ごろが来てもユビヤ一つさしとらんさかいに。――皆よその連中も大勢買いよったがいや」と、照れながらいった。
秋の運動会には実枝はその碁盤縞の洋服を着ていった。実枝は駆けるのが得意で、部落リレーにはスタートを切るのだと張りきっていた。その自分の姿を母親に見てもらいたいらしく、どうでもいねに来てほしいという。
「こんな鬼婆のようなお母さんが行たら、ふが悪かろうがいや」
実枝の気を引いてみると、
「ほたって、髪結うて、去年のように奇麗なべべを着てこうがいの」といった。去年の時も半ばは実枝の気持を汲み、半分はそういう実枝の姿を見たい自分の心で、いねは出かけていった。よう来られて、と会う人ごとに声をかけられ、いねは不具のような自分のからだをかくしたい気持を、「牛にひかれましてなあ」としいて笑い消したのであった。実際、人前に出られるからだではないとは思うが、実枝にそういわれれば母親としての務めとも思い、また運動会は見ていればおもしろくもあった。