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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
返事のしかたがない困った顔つきでただ、ふうふうとうなずいているクニ子、そのそばに控えているような立場の実枝。
実枝は何の考えもなく、ただべらべらと口を動かしているようなミチの饒舌に、何ということないいらだたしさを感じ、母親ほども年のちがう姉の顔に目をすえた。おいねさんにそのままじゃと近所の人のいうとおり、ミチは母親に生写しで、広い生えぎわや、尖ったようにやせた顔つきなどまったく似ている。しかし見れば見るほど母親のいねとは違った女であるのを実枝ははっきりと見て取った。顔も姿もこんなに似ていて、それでこんなに心の違うのはどうしたことであろうか。きっとこれは環境がこんな風にさせるのだろうと、実枝は恐ろしい思いでその顔を見つめた。それほどの思いを妹に与えているとも知らずにミチはしゃべりつづけた。話は枝に枝が出て、肩をこらした話、その時にたのんだ按摩に町で出会ったら杖でこつこつ拍子をとりながら歌をうたって歩いていた話になり、そしてやがては按摩の家族にまで及んでいくのであった。口をつぐむことなど忘れたかのように、ゆるんだ唇をある時は笑いに大きくひろげ、ある時は泣声でふるわせ、まるで習性になってしまったように動かしつづけている。