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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
吉川英治『治郎吉格子 名作短編集(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:治郎吉格子、増長天王、醤油仏、八寒道中、野槌の百、銀河まつり、無宿人国記、雲霧閻魔帳。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 页
二十七、八の苦みばしった男である。胸から二の腕にかけて、蟇の肌のように、入墨のぼかしが見える。その背なかに彫ってある自雷也が通称になって、自雷也床の親方で通っている彼だった。
「……ちっとも、似ていねえな。腹ちがいにしても、兄妹なら、どこか似ているところがありそうなもんだが」
治郎吉の眼は、煙草のけむりの中で、そう見ていた。湯女のお仙から、兄の仁吉が、太左衛門橋で、髪結床をしているということは有馬の逗留中に、度々聞いていたが、今日ここへ来たのは、伸びた髯を剃るだけの用事ではなかった。――旁、彼女から縋られたある問題のかたをつけるためだったが、ほかの客がいては、ちょっと、話のぐあいが悪いのである。
ま、髯でも剃っているうちに、ほかのてあいも帰るだろうと、腰をすえていると――
「お待たせいたしました」
と、仁吉の眼が、はじめて、治郎吉をふり顧った。
「もう、私の番ですか。先のお客があるんでしょう、どうぞ」
「なに、旦那」
と、仁吉は、銀歯をちらと見せて、
「あの通り、夢中なんですから……」
と、将棋の一組を顎で指して、苦笑いをもらした。
「そうですか、じゃあ」