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あさくさふどき

浅草風土記

久保田 万太郎

雷門以北「東京日日新聞 夕刊」1927(昭和2)年6月30日~7月16日<br>吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年2月<br>続吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年3月<br>隅田川両岸「中央公論」1935(昭和10)年9月<br>浅草田原町「三田文學」1912(明治45)年2月<br>あやめ団子「花形」1920(大正9)年8月<br>相模屋の路次・浅倉屋の路次「新演藝」1920(大正9)年8月<br>浅草の喰べもの「中央公論 夏期特別號」1920(大正9)年7月<br>夏と町々「時事新報 夕刊」1929(昭和4)年6月1日~30日<br>絵空事「新潮」1932(昭和7)年3月<br>一年「東京新聞」1946(昭和21)年4月15日<br>浅草よ、しずかに眠れ「苦樂」1948(昭和23)年2月<br>夜店ばなし「婦人公論」1931(昭和6)年7月<br>除夜「週刊朝日」1930(昭和5)年12月28日號<br>正月「婦人公論」1932(昭和7)年1月<br>水の匂「文藝春秋」1941(昭和16)年7月<br>町々…… 人々……「別冊文藝春秋」1955(昭和30)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,294 字 · 318 页

青空文庫

三

だから違うといえば違う……

田中ァ。――田中ァ……

大した人気だ。筋書のうえにさらした眼を転じてわたしは舞台をみた。ちょうどその筋書の、各自子分共が刀の柄に手をかけて睨む間を縫って悠然と花道を帰って行く時次郎。――田中介二扮するところの追分の時次郎のうえをわたしはみまもった。

三

が、わたしは、はじめてみるのだ、この役者を。――名まえはむかしから知っているけど、顔をみるのは、今日がいまはじめてだ。

なぜむかしから名まえを知っているかということは、役者としてのその名まえを知っているのじゃァない。作家としての、新進作家としての其名まえをわたしは知っていたのだ。

作家?――田中と新進作家?……

知らない人は信じないかもしれない。が、いまをさるざっと二十年まえ、わたしのはじめての作が「三田文学」に載ったとき、かれのはじめての作もまた「早稲田文学」に出たのだ。そうしてかれは圧倒的な好評をえた。――それが「死の歓び」という若い朝鮮人の自殺をあつかった小説、きわめて美しい文章の、かなりの長さをもった小説だったことをいまなおわれわれにおぼえさせているほど、当時の文壇をその作は刺戟した。