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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
一つに合流し、そしてまた二つに分れる」
「豊水期にもこれらの洲は冠水することなく」と畠中が暗誦するように続けた、「またその数の増減する例もなし、これ珂知川のふしぎの一とす、――平州地誌に書いてあるさ」
「釣れても釣れなくっても」と益村は問いに答えた、「こんなことはかくべつ面白いものじゃないさ」
畠中は黙っていたが、やがて水面を指さし、引いているぞと云った。けれども益村には聞えたようすがないので、もういちど「引いているよ」と注意した。
「魚じゃないさ」と益村は答えた。
「浮子を見ろよ」
「鉤がなにかにひっかかったんだろう」益村はそう云った、「心配するな、餌のない鉤に魚はくいつきゃあしないから」
畠中は眼をみはって益村の顔を見、すぐにその眼を細めた。むっとしたのだろう、なにか云い返そうとして、二三度その唇をむずむずさせたが、思い直したようすで、逆に皮肉な微笑をうかべた。
「なにか困ったことでもあるんだな」
「あの木を知っているか」と云って益村は対岸のほうへ顎をしゃくった、「あそこに大きな濃い緑の木があるだろう、葉の表はひどく濃い緑だが、裏は白いんだ、そら、――風が吹きあげて葉裏が返ると、ぜんぶの枝に白い花が咲いたようにみえるだろう」