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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

「だからどうした」

「頭のめぐりの悪い男だ」

「なにをそんなに悩んでるんだ」と畠中は励ますような口ぶりで云った、「――もうはらをきめてもいいころじゃないか、なにか故障でもあるのか」

ははあそうか、と益村安宅は思った。彼はその話で来たのか、それはそれは、と心の中で呟き、あのことでなかったのは幸いだ、と緊張した気分をゆるめた。

「益村はおれとおないどしだから、もう三十一だろう」

「おれのほうが半年はやく生れた筈だ」

「しかも、お梶さんが亡くなってもう三年にもなるのに、まだみれんが残ってるのか」と畠中は調子をやわらげて云った、「杉原の波世さんだってもう二十二だ、理由もなしにいつまでも待たせてはおけないじゃないか、そうだろう」

おれの母は二十五で父と結婚した、二十二だからってそういそぐこともないさ。益村はそう思ったが、やはり口にはださなかった。

「あの洲を見るたびに」益村は川上のほうを見やりながら云った、「――ここへ来て、この川の水とあの洲を見るたびに、おれはいつも人と人との関係を連想する」

「またはぐらかすのか」

「まあ聞けよ」と益村は続けた、「友人でも夫婦でもいい、心と心がぴったり合っているかと思うと、川の水が洲にぶっつかったように、なにかの拍子でふっと、身も心もはなればなれになってしまう、それがいつかまた、洲のうしろで水