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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
畠中は江戸の留守役である鶴井清左衛門について、かなり詳しく書いていた。「四十七歳にもなるのに、留守役としては新任者のようにしかみえない。酒が飲めないとは聞いていたが、本当に一滴も飲めないし、口のききかたもへた、少し吃るうえにすぐ顔を赤くする。五十近くになり一藩の留守役を勤める者が、言葉に詰まって赤面するなどということは、おそらく誰にも信じられないであろう。そればかりではない、鶴井さんは鼻を揉むという妙な癖がある。初めは拇指と食指でつまみ、それから鼻柱の左右を丹念に擦り、ついには鼻ぜんたいを揉み動かすのである。それが人と対談するときや、接待の酒席などで特にいちじるしくなる。おれは誰かに似ているなと、いろいろ考えてみたあげく、南小町の兼しげのおやじのことを思いだし、つい独りで笑ってしまった」
それを読みながら安宅もふきだした。城下の南小町にある料亭「兼しげ」の老主人は、帳場に坐っていつも自分の大きな鼻をいじっていた。その赤くて肉の厚い鼻を、擦ったりつまんだり、また鼻毛を抜いたり、鼻の穴へこよりを入れて、喉の裂けるようなくしゃみをしたうえ、「くそうくらえ」