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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

とどなる。そうしないと風邪をひくのだ、ということであった。――手紙にはなお江戸屋敷の消息がいろいろ並べてあり、幕府との交渉は容易にはまとまりそうもない、と結んであった。

安宅が手紙を巻いていると、また家扶の沢井がはいって来、自分はこれから寺へゆかなければならないが、使いの者をどうしようかときいた。

「使いの者」と云って安宅は振り向いた、「――なんの使いだ」

「さきほどの松茸と鮎でございます」

「それは受取ったのだろう」

「さようでございますが、使いの者がおめにかかりたいと申しますので」

なに者だときくと、御婦人であると答えた。どこの婦人かと問い返すと、衣笠の使いで来た者で、おめにかかればわかる、と云っているとのことであった。おりうだな、安宅はそう思い、とおせと云った。沢井が出ていってほどなく、おりうがあらわれた。誰かから借りたのだろう、着物も帯もひどくじみな品であるし、髪も化粧もごく目立たないようにしているのがわかった。

「あたし伺ったりしてわるかったでしょうか」とおりうは坐るとすぐに云った。

「そんなに固くなるな」と彼は笑った、「侍屋敷だって人間の住居に変りはない、坊主も来るし掛取りも来るさ、――鮎と松茸だそうだが妙なとり合せじゃないか」