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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

七

そのとき障子の外で、「だいぶ評判がいいじゃないか」と云う声がし、すっと障子があいた。芳村伊織が、ふところ手をして立っていた。酔っているのだろう、おもながな、すっきりした顔が少し赤く、着ながしの裾がちょっと乱れて、粗毛の生えている脛が見えた。

「この女には近よるなと云った筈だ」と芳村はふところ手のままで云った、「――そろそろ帰ってもらおうかな」

七

その次にいったとき、おりうはぶあいそで機嫌がわるかった。どうかしたのかときいても、初めのうちは返辞をそらして、女には自分で自分の気持をどうすることもできないときがあるのだ、などと云い紛らわしていたが、そのうちにふと坐り直し、眼を据えて安宅を見た。

「あんなふうに云われて」とおりうはなじるような口ぶりで云った、「どうしてなにか云い返さなかったんですか、どうしておとなしく帰ってしまったんですか」

安宅は眼を細めて庭を見た、「もみじが散ってしまったな」それからおりうに振り向いて微笑した、「――女でさえかなわないのに、男のおれにかなう筈はないじゃないか」

「なんのことを仰しゃってるんです」

「本当を云うと、あのときはもう帰りたくなっていたんだ」