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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
「もちろんさ」彼は冷えた酒を手酌で啜りながら、声に出して呟いた、「おれはもう若くもないし男やもめだ、杉原の娘は若いうえに初婚だし、留守役の妻は重荷だろう」
この城下勤めならどうにかなるだろうが、江戸詰めとなれば交際も多く、客のとりもちに慣れるだけでもなみたいていではない。おりうならこれらの条件にぴったりだ。
「面倒なのは芳村という男だが、これは片をつける手段があろう」と安宅はまた呟いた、「肝心なことはおりうの気持だ、――ひとつ袖ヶ崎へいったときにでも慥かめるか」
おりうのほうから云いだしたことだ。本当に袖ヶ崎へいってみるとしよう、と益村は心をきめた。
十一月になるとすぐに、江戸の畠中から四通めの手紙が届いた。まえによこした便りのあと、ずっと鶴井清左衛門に付いていたらしい、どうやら幕府からの融資は許可されることになったが、そこまでこぎつけるのに、留守役がどれほど奔走し苦労したかを、実際にこの眼で見て驚嘆し、心から頭をさげた、ということが書いてあった。しばしば酒席を設け、遊里へ誘い、ときには妓の面倒までみる。こんどの川普請はのっぴきならぬ場合だから、あらゆる手段を使ったのだろう。