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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
と、兄のキリレンコと、ウロンスキーと、幸子達三姉妹と、あれがその人だと云って妙子がそっと姉達に教えたルドルフと、外に見知らぬ日本人や外人が二三人いたばかり。船が出たあとで、貞之助達がキリレンコの一行と話しながら桟橋を歩いて来、海岸通で別れを告げた時分には、もうルドルフも外の人達も見えなくなっていた。
「あのお婆ちゃん、いくつか知らんけど、ちょっとも歳を取らんようやないか」
貞之助は、あの、鹿のような軽快な歩調でチョコチョコと歩いて行く、特に後姿の若く見える「お婆ちゃん」の影を見送りながら云った。
「あのお婆ちゃん、又カタリナと会える時節があるやろか」
と、幸子が云った。
「―――なんぼしっかりしてるみたいでも、歳やさかいにな」
「そんでも、涙一つこぼさはれへなんだわ」
と、雪子が云った。
「ほんに、あたし等の方が泣いてるのんで、却って極まり悪かったわ」
「今にも戦争が始まりそうな欧羅巴へ独りで出かけて行く娘もえらいが、出してやるお婆ちゃんもえらいもんやな。尤もあの人等は、革命で散々苦労しぬいてるよって、案外平気かも知れんけど」
「露西亜で生れて、上海で育って、日本へ流れて来た思うたら、今度は独逸から英吉利へ渡るねんな」