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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

「あたしはどうしょう」

「中姉ちゃんはしまいまで見てなさい。姉ちゃんひとり放っといたら悪いわ」

「姉ちゃんにどない云うとこう」

「どないなと云うといて」

「こいさん今度、板倉のこと姉ちゃんに話したのん」

「話さへん」

妙子は玄関のところでクリーム色のレースを肩に掛けながら、

「………けど、話してくれても構めへんねん」

と、云い捨てて階段を降りて行った。

幸子が席に戻った時はもう吃又の幕が開いており、姉は熱心に舞台を見入っていて一と言も物を云わないのが、幸子には都合が好かったが、芝居が跳ねて、人ごみに揉まれながら正面玄関へ吐き出されて行った時に、姉は始めて、

「こいさんは」

と、聞いた。

「さっきちょっと、友達の人が面会に来やはって、連れ出して行かはったらしい」

幸子は取り敢えずそう答えて、銀座通まで姉を送って行き、尾張町で別れて宿へ戻ったが、今こいさんが一と足違いでお立ちになりましたと、女将が云った。そして、実はああ云うお電話でございましたので、兎も角も今夜の寝台券を一枚買わせておきましたところ、歌舞伎座からお帰りになりまして、それではその寝台で帰るからと仰っしゃって、大急ぎでお立ちになったのでございます、その間に蘆屋のお宅とも電話でお話しになったようでございますが、委しいことは伺うておりません、ただ電話ではよう分らないけれども