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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
彼と妙子とのいきさつは幸子を除く家族の者には秘密にしてあると云うことは、彼も知っている筈であるのに、あの取り済ました、おっとりした奥畑が、焦慮の余り平生の嗜みも忘れて、そんなことを取次の女中に聞いたと云うことも、今日に限って幸子には許せるように思えるし、彼がそれほど度を失っていることに、寧ろ好感が持てさえした。
「兎に角上って戴きなさい」
彼女はそれをよいしおに、垣根のところからまだ首を出していたシュトルツ夫人に、
「お客様でございますから、………」
と、断りを云って、今朝から何度か泣いたりして脹れぼったくなっている眼の縁を直すために二階へ上った。
電気冷蔵庫が役に立たなくなっているので、井戸で冷やした麦茶を持って行かせなどして、暫く待たせてから幸子が応接間へ這入って行くと、奥畑は又この間のように立ち上って気を付けの姿勢をした。その、真っ直ぐに揃えた紺サアジのズボンには、正しい折目がついていて、殆どハネも上っていない。さっき泥まみれになって来た庄吉の姿とは余りな違い方であったが、たった今しがた阪神電車が大阪から青木まで開通したと聞いて、それに乗って阪神の蘆屋まで来、そこから此処まで十丁余の路を歩いただけである、その途中まだ水の退き切らない部分も少しはあったが、大したこともなかったので、そこの所だけ靴を脱いでズボン