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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
」
北村は誰に対しても私(わたし)という言葉きり使わない。彼の黒好みの洋服とその私とが、時によって調和したり不調和になったりするのだ。
今はなにか不調和だった。気持ちも不調和だった。彼は自分のうちに、制作に対するモチーフの涸渇を感じていた。形態と色彩とを酷使する裏面には、強烈なモチーフが常に必要だった。それが今年は一向に湧き上って来なかった。なぜだ、どうしたのだ、と彼は自ら反問した。答えは得られなかった。むりにもモチーフを湧き立たせるために、酒を飲んだ。飲めばますますモチーフは萎んでいった。だからますます飲んだ。新たに何かが湧き上ってくるまではと、そういう気持ちで飲んだ。――酔えば、心がしんしんと深いところへ沈んでゆく。だが、そこを手探りしてみても、空白だ。
戸外には風雨が荒れていた。
菅原は両の掌に額をあてて、何か考えこんでいる。周が静かに本堂と話している。
「極東は、少くとも仏教地域は、宗教的に空白地帯ですよ。仏教の行事が単なる風俗となってから、無信仰の心理状態が瀰漫してしまった。だから、さまざまな迷信邪教が起ってくる。凡そ世界中で極東ほど、多くの迷信邪教が起ったり消えたりするところはありますまい。