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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

「そんなことなら、私が調べてきてあげますよ。」

北村は気安く言った。どうせ富子の気まぐれな話だと彼は思ったのだ。昼間ならともかく、夜中に鵞鳥がそんなに鳴き立てる筈もない。

そこへ、みよやが来客を報じた。井上の奥様という名前を開いて富子はちらと眉根を寄せたが、応接室へ通しておくように言いつけ北村に言った。

「鵞鳥のこと、まだ内緒にしておいて下さいね。わたくし、鵞鳥にはどうしても水が必要だと思いますのよ。池が一つほしいんです。家鴨ではきたないし、白鳥というわけにもまいりませんし、まあ鵞鳥ぐらいなところでしょうね。よいことを聞きました。水が必要だということ、よく調べておいて下さい。あなたにお酒が必要なのと同じですよ。ゆっくりあがっていって下さい。もう千重子も帰ってまいりますでしょう。」

北村が辞退するのも構わず、富子は酒の仕度をした。然しもうその時、彼女の頭には鵞鳥のことも北村のこともないらしく、何か考えこんだ様子で、鼻がつんと高く聳えていた。居室にはいり暫く身繕いをして、応接室に出て行った。

北村は腰を据えた。どうとでもなれと思った。物事に動じないだけの心構えは出来てるつもりだったし、前には酒がある。