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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

その上、父との応対という、いちばんの苦手が加わった。

母との応待ならば、のらりくらりと、なんとでもごまかせる。けれど、父とはそうはいかない。父の前に出ると、裁判官の前にでも出たように、わたしは自然に、身も心も縮みこませてしまう。わたしたち姉弟三人ともそうなのだ。つまり、親に対して甘えたり我儘をしたりする方面を、すっかり母へ持ってゆき、親に対する畏敬礼節の方面を、すっかり父へ持っていってるのであろうか。一家うち揃っての楽しい談笑の時間が殆んどない家庭の中の、父と母との長年の夫婦生活というものが、この頃わたしには奇妙なものに思われてきた。それかといって、父はいつも無口で厳格なだけで、怒り猛けるようなことはないし、酒に酔えばすぐに寝てしまう。社会に出てはどうだか分らないが、家庭では孤独な人のようにも見えるのだ。

父は、わたしをじっと見つめるでもなく、わたしから眼をそらすでもなく、やり場に困ったような眼差しで、それでも言葉はぴしぴしと、のっぴきさせず問いつめてくるのだった。

「こんどの話、先方ではたいへん乗気だし、こちらでも異存はない。然し、当人のお前があやふやでは困る。