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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

「停電で忙しいんだよ、きっと。手伝っておいでよ。」

そして順一はもう、菓子鉢の羊羮を一切れつまみあげていた。

「お兄さま、ずるい。わたしたちがいない間に、お羊羮をみんな食べてしまうつもりよ。」

「ふふふ、ばれたかな。だけど、僕の策略を見破るとは、八重子さんもずるいぞ。」

「だってこのお羊羮、わたしがお母さまにおねだりしてきたのよ。」

「その功績は認めるよ。」

順一はまた一切れつまみあげて、ちょっと宙を見つめた。

「いったい、贅沢だな。」

彼は羊羮を肴にウイスキーを飲んで、言い出した。

「家のことだよ。お母さんはまだ丈夫だし、健康な御令嬢が二人もいて、そして女中まで使っている。今時、贅沢なことじゃないか。」

千重子が眼を挙げて、順一の顔をじっと眺めた。

「今日は順一さんどうかしてるわね。それとも、もう酔ってるの。」

「酔ってるものか。どうもしていない。ただ、少し心配だよ」

「家のことが?」

「そうさ。収入なんか殆んどないだろう。お父さんは銀行の取締役をしておられるが、常務とか専務とかではないし、所謂サラリーマン重役で、報酬は従業員なみだ。それぐらいのこと、僕だって知ってるよ。