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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

いいかい。」

順一はコリントにかかった。

八重子はそっと千重子に囁いた。

「何のことだったの。」

千重子は黙っている。

「わたし、分ったわ。菅原さんのことでしょう。」

千重子は頷いた。

「帰っていらしたの。」

千重子は頷いた。

「あら、そう。」八重子は大きな声をした。「旅から帰っていらしたの。」

順一が振り向いた。

「誰が帰って来たんだい。」

「菅原さんよ。旅に出たっきり、あんまり長びくから、みんな、心配していたところなの。帰っていらしたんですって。」

「なあんだ。旅に出た者は、帰って来るにきまってるじゃないか。十万億土の旅じゃあるまいし、それで、どうしたんだい。」

「それだけよ。」

「呆れた人たちだ。それだけの電話か。」

順一はまたコリントにかかったが、ふと、その手を休めた。

「もっとも、北村の小父さんは子供っぽいところがあるね。画家はいったいに子供っぽいものだが。あれで、も少し勿体ぶらなくて、子供っぽさに徹するといいんだがね。やはり成年者だよ。」

八重子は頓狂な円い眼付をした。

「成年にきまってるわ。もう四十と幾つかでしょう。」

「困るねえ。一々説明をつけなくちゃ、話が通じやしない。