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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

然し悲惨なのは、家族の者たちが現存しているからだと、俺は解釈した。その帰還者が全然の独り者だったら、悲惨なことなどありはしないのだ。その上、俺は上海で、無籍者に知人があった。勿論これは国籍がないという意味であるが、国籍がなければ随って国内戸籍もないわけだ。彼は至極朗かで呑気だった。書店に勤めて、かたわら詩を書いていた。飲食物は固より、日光と空気とを充分に享楽してるのだ。

俺は全く独り者だった。そして戸籍も恐らく無くなってるだろう。随って国籍も無くなったわけだ。つまり、直接に人類の一員となったのだ。この思いは、青天白日の気持ちだった。――それが、俺をいつも誘惑する。

そのまま広島を立ち去れば、俺はどうなっていたか分らないが、或は立派であったろう。だが俺は、のこのこと、二駅先の田舎に縁者を訪ねて行ったものだ。そしてそこで、身内の者たちの墓地も知り、俺自身の戸籍も明確にし、一年ばかり暮した周志淵から東京の周組南に宛てた長文の手紙が、上海を立つ時周志淵から貰ったまま、鞄の中にはいっていた。それから俺は、旧師の長谷部先生を京都に訪れ、この老先生の日本再建に関する情熱に、ふしぎな驚嘆を感じた。