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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

と面をおおった。

「よろしいよ。坐りなさい」

と安斉さんは小声でおっしゃった。

「…………」

「わしはここから覗いていた。すっかりきいていた。ご忠義のためよんどころない」

「はあ」

「叱りはしない。坐りなさい」

「はあ」

「お薬になりますよ」

「はあ」

と正三君は涙の中にもうれしかった。

「不都合千万!」

と安斉先生はたちまち大声をたてた。

「はあ?」

「それぐらいのことで若様にお手むかいをするようではお相手が勤まらん」

とまた声をはりあげる。学習室にいる照彦様と照常様にきかせるためだ。

「…………」

「君、君たらずといえども……内藤君、心配はいらんよ」

「はあ」

と内藤君はようやく意味がわかった。

「不都合千万!」

「…………」

「そういう料簡ではお相手が勤まらん。明日とはいわぬ、今日唯今、帰りなさい。さあ。帰りなさい。自分の家へ帰りなさい」

と安斉先生はわれ鐘のような声をたてた。

「先生」

と照彦様が学監室へ飛びこんだ。

「なんでございますか?」

「僕がわるいんです」

「いや、若様にはお科はありません。内藤君」

「はあ」

「お殿様や奥様へはわしから申しあげます。荷物は後からとどけます。