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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

「あれはお兄様のことじゃありません」

「うそをつけ」

「照常、いいかげんにしなさい。安斉先生にきこえる」

と照正様がたしなめた。

「はなしてください」

と照彦様は身をもがいた。

「いいつけるから放さん」

「いいつけません」

「それならよろしい」

と照常様はようやく安心した。

正三君は初めて他人の中でもまれたような気がした。昼間頭を叩かれて夜首をしめられた。その前に照彦様とのいきさつがあったから、この日は妙に事件が輻輳したのである。家へ帰ったのはその次の土曜日だったから、ことに感慨が深かった。

「正三や、大きくなったよ、おまえは」

「正ちゃん、いつまでも帰らなかったのね。おやしきはどんな風?」

とお母さんやお姉さん達がよろこび迎えたことはいうまでもない。皆でしばらくとりまいていた。その中にお父さんや兄さんがもどってきて、「どうだ? 正三、おやしきは?」

とまたきくので、正三君は同じことを幾度も答えなければならなかった。

「おやしきではお殿様や奥様とご一緒にいただくんですってね?」

とお母さんは夕ご飯の時もおやしきの話でもちきった。

「晩だけですよ」

「ご一緒の食卓に坐るんですってね?」