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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

「別に用事もないが、みなさんのおじゃまをしたくない」

「ははあ?」

「しかし私は海が大すきだ。舟にも強い。誤解しちゃ困る」

「それじゃなぜおいでになりませんか?」

「酔うことなぞはけっしてないが、たった一つ悪いくせがある」

「ははあ」

「びろうな話だけれど、陸地でないと小用が出ない」

「ハッハハハハ」

「若様、この春はとんだごめいわくをおかけ申しあげました。ハッハハハハ」

「私はお酔いになったのかと思いました」

「いや、子供の時からああいうくせがあるのです。ハッハハハハ」

と老安斉先生はナカナカずるい。ただ笑ってごまかしてしまう。

正三君は釣魚にゆくのが楽しみで日曜が待ちもどかしかった。土曜日の午後、学校から帰って、お庭を遊びまわっている中に、

「若様、明日の朝は品川まで歩くんですか?」

ときいた。

「いや、自動車だよ」

「それじゃ釣り竿はどうします?」

「そんなものはいらない」

「ははあ?」

「舟から釣る時はたいてい手釣りだよ」

「そうですか。なるほど」

「使う時には釣り竿を持ってゆく」

「ははあ」

「きみはなんにも知らないんだね」

と照彦様はあなどり始めた。

「ええ。存じません」

「きみはほんとうに海へいったことがないのかい?」