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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
「綾にしき」1892(明治25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页
と云う、給仕が心得て持来るを目科は受取るが否直ちに其口なるコロップを抜き其封蝋の青き所を余に示してにッこと笑み、瓶は酒の入たる儘にて幾法の銀貨と共に卓子の上に残し置き、コロップを衣嚢に入れて再び二十三番館に帰り、今度は案内を請わずして四階の上に飛上る、成るほど生田の室は「飾職生田」と記したる表札にて明かなれば、直ちに入口の戸を叩くに内より「さアお這入り成さい」との声聞ゆ、鍵は錠の穴に差込みしまゝなれば二人は遠慮なく戸を開きて内に入る、内には窓の下なる卓子に打向い、今現に金の指環に真珠を嵌むる細工に掛れる、年三十二三の優さ男、成るほど女にも好かれ相なる顔恰好は是れが則ち曲者生田なるべし、生田は二人の入来るを見て別に驚く様子も無く立来りて丁寧に「何の御用でお出に成りました」と問う、目科は斯る事に慣れし丈け、突然進みて生田の腕を捕え大喝一声に「法律の名に於て其方を捕縛する」と叱り附る、生田は初て驚きたるも猶お度胸を失わず「御笑談を為さるな私しが何をしました」目科は肩を聳して「これ/\今と成て仮忘けても了ないよ、其方が一昨夜梅五郎老人を殺し其家を出て行く