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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
「綾にしき」1892(明治25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页
第十回(判然)
事と言い無理に余を遮らんとす、余はむッとばかりに憤しかども目科は眼にて余を叱り、二言と返させずして匆々倉子に分れを告げ、余を引摺らぬばかりにして此家を起立たり。
「君は心を失ッたか」とは此家を出て第一に目科が余に向い発したる言葉なりしが、余は彼を佶と見詰て「夫は僕の方で云う言だ、君こそ心を失ッたのだろう、僕が発見した敵の灸所は今まで詮策した中で第一等の手掛じゃ無いか、返事に窮して倉子のドギマギした様が君の目に見えなんだか、今一思いと云う所で何故無理に僕を制した、君はあの女に加担する気か、え君、夫とも犬が非常の手掛りだと云う事が猶だ君には分らぬか」鋭き言葉に目科は別に怒りもせず「夫だから前以て誡めて置たのだ、成るほど犬に目を附けたは実に感心だ、多年此道で苦労した僕も及ばぬ程の手柄だ、吾々の拠る所は是から唯あの犬ばかり、夫にしても君の様に短兵急に問詰ては敵が直様疑うから事が破れる、今夜にも倉子があの犬を殺して仕舞うか夫とも何所かへ隠して仕舞えば何うするか」成る程と感心して余は猶お我腕前の遙に目科より下なるを会得したり。
第十回(判然)