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ちのもじ

血の文字

黒岩 涙香

「綾にしき」1892(明治25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页

青空文庫

第六回(犬と短銃)

のだろう、藻西太郎か、藻西太郎が自分で自分の名を書附て行くと云う事は決して無い、無い/\何うしても無い、自分で自分の名を書くとは余り馬鹿げ過て居る」

余は此言葉に何の批評をも加えねど、己が役目の漸く終り、やッと晩餐に有附く可き時の来りしを歓びながら出て行く彼の警察長は目科の言葉を小耳に挟み彼れをからかうも一興と思いし如く「当人が既に殺しましたと白状した後で他人の君が六かしく道理を附け独り六かしがッて居るのは夫こそ余り馬鹿さが過るじゃ無いか」目科は怒りもせず「左様、馬鹿さが過るかも知れぬ、事に由ると僕が全くの馬鹿かも知れぬ、けれども今に判然と合点の行く時が来るだろうよ」警察長は聞流して帰り去り、目科も亦言流して余に向い出し抜に「さア是から二人で警察本署へ行き、捕われて居る藻西太郎に逢て見よう」

第六回(犬と短銃)

藻西太郎に逢て見んとは素より余の願う所ろ何かは以て躊躇う可き、早速目科に従いて又もや此家を走り出たり、余と云い目科と云い共に晩餐前なれど唯此事件に心を奪われ全く饑を打忘れて自ら饑たりとも思わず、只管走りて大通りに出で茲にて又馬車に飛乗りゼルサレム街に在る