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ちのもじ

血の文字

黒岩 涙香

「綾にしき」1892(明治25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页

青空文庫

第二回(血の文字)

ものか、来るなら一緒にお出なさい、随分面白いかも知れませぬから」斯く聞きて余は嬉しさに心迫き、返す言葉の暇さえ惜しく、其儘帽子を戴きて彼れに従い珈琲館を走出たり。

第二回(血の文字)

目科に従いて走りながらも余は唯だ彼れが本性を知る時の来りしを喜ぶのみ、此些細なる一事が余の後々に至大なる影響を及ぼす可しとは思い寄ろう筈も無し、目科は宛も足を渡世の資本にせる人なる乎と怪しまるゝほど達者に走り余は辛うじて其後に続くのみにて喘ぎ/\ロデオン街に達せし頃、一輛の馬車を認め目科は之れを呼留めて先ず余に乗らしめ馭者には「出来るだけ早く遣れ、バチグノールのレクルース街三十九番館だ」と告げ其身も続て飛乗りつ只管馬を急し立たり、「はゝア、行く先はバチグノールだと見えますな」とて余は最も謙遜の詞を用い目科の返事を釣出さんと試むれど彼れ今までとは別人の如く其唇固く閉じ其眉半ば顰みたるまゝにて言葉を発せず其様深く心に思う所ありて余が言葉の通ぜぬに似たり、彼れ何を斯く考うるや、眼徒らに空を眺めて動かざるは六かしき問題ありてを解かん為め苦めるにや、頓て彼れ衣嚢を探り最太やかなる