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おいついたゆめ

追いついた夢

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页

青空文庫

――おれの酒は病気だ、こいつばかりは自分でどうにもならねえ、なあ七さん、おめえはおたみさんの病気で苦労するが、おめえに苦労させるおたみさんはもっと辛えや、そうだろう、それが夫婦の情てえもんだ、……おれも酒じゃあ女房子供に苦労させる、わかってるんだ、宇之の野郎なんぞ可哀そうでしょうがねえんだ、こころもちは辛えんだけれども、しようがねえ、この酒はやめえなんだから、夫婦親子の情なんていったっておめえ、病気にゃあ勝てやしねえや。

こんなふうにくだを巻く源次の口から、おけいはほかにもいろいろなことを聞いた。父の七造がまえには京橋へんの質屋にいたこと、おたみはその店の養女で、いつか七造と愛しあっていたところ、婿を取ることになったので隠しきれず、結局は義絶ということで、二人とも身ひとつで逐い出されたことなど、……もちろん断片的な、半分はふざけたような話しぶりだったが、おけいには強い印象として記憶に残った。

源次の話がどこまで事実かということはわからない、父や母は決してそんな話はしなかった。またこちらから問いただせることでもなかったが、不平らしい顔もせず煮炊き洗濯をする父のようすや、そういう良人に寝床の中から喰べ物の註文をしたりする母の態度を見ると、質屋の養女とその店の者という関係を証明するようで、おけいはしばしば哀しい