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あめのやまぶき
雨の山吹
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页
一
一
母の病間をみまってから兄の部屋へゆくと、兄も寝床の上で医者と話していた。医者はすぐに帰り、兄は横になった。
「どうなさいました」
「ちょっと胃のぐあいが悪いんだ」兵庫は眉をしかめた、「――四五日よく眠れなかったところへ、いやな事が起こって、ゆうべちょっと酒をすごしたのがいけなかったらしい、明け方に血のようなものを吐いた」
もとから痩せていたほうだが、そう云われて見ると頬がこけ、眼がくぼんで、血色もひどく悪い。唇が乾くとみえて、頻りに舐めるが、その舌の色も悪かった。
「貴方が酒をすごすとは珍しいじゃありませんか、いったいなにがあったんです」
兵庫は枕の下から封書を出して、黙って弟に渡した。ひらいてある手紙で、宛名は兵庫、裏には汝生という妹の名が書いてあった。
「汝生がどうかしたんですか」
「読んでごらん」
又三郎はひらいてみた。かなり長いものであり、まったく意外な文面であった。彼はそれを二度読み返した。
こんどの縁談でいろいろ心配をかけたが、自分はどうしても嫁にはゆけない、西牧という人に不満があるのではなく、自分の身にとつぐことのできないわけがあるのである。