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あめのやまぶき
雨の山吹
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页
五歳のとき孤児になり、葛西家にひきとられてから、御両親にも兄さまたちにも、しんじつ肉親のように可愛がられて来た。その御恩と義理を思えば耐え難いが、縁談はもう断われなくなったし、とつぐわけにもゆかず、身の処置に窮したので、死ぬ決心をした。御病床の母上や兄上さまたちはさぞお怒りであろう、西牧という方にも相済まないが、ほかに思案がなかった、愚かなやつだと思ってゆるして頂きたい。一日も早く母上が御恢復なさるよう、また御一家の幸福と御繁昌を祈っている。――つまり遺書であった。
「いつのことですか、これは」
又三郎は兄を見た。それから封書の裏に、小松町柊屋と書いてあるのを読んだ。
「ここに小松町とありますが」
「文代が来る、聞かれては困るんだ」
兵庫が云った。又三郎は手紙を巻いた。あによめの文代が、茶を持ってはいって来た。嫁して五年になるが、こんど初めて妊娠し、帯の祝いをしたばかりである。健康そうに肥えて、膚も艶やかに色づき、眼にはおちつきと満足感があふれているようにみえた。……彼女はあいそよく三浦のようすを訊き、さも済まなそうに云った。
「御用も多いでしょうに、とんだ事をお願いして申し訳ございません」