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かみなりもんいほく

雷門以北

久保田 万太郎

「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月30日~7月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,839 字 · 44 页

青空文庫

広小路(四)

いい材料を惜しげもなく使うのと阿漕に高い勘定をとるのとでわずかなうちに仕出し、間もなく今度は、いまの「区役所横町」の徳の家という待合のあとを買って入った。――それがいまの「中清」のそも/\である。

ついまだそれを昨日のようにしかわたしは思わないが、広小路のあの「天芳」だの仲見世の「天勇」だののなくなったいま、古いことにおいてもどこにももう負けないであろう店にそのうちがなった。が、そこには、その横町にはさらにまたそれよりも古い「蠣めし」がある――下総屋と舟和を、もし、「これからの浅草」の萌芽とすれば、「中清」だのそこだのは「いままでの浅草」の土中ふかくひそんだ根幹である……

広小路(四)

「ちんやの横町」のいま「聚楽」というカフェエのあるところは「新恵比寿亭」という寄席のもとあったところである。古い煉瓦づくりの建物と古風なあげ行灯との不思議な取合せをおもい起すのと、十一、二の時分たった一度そこで「白井権八」のうつし絵をみた記憶をもっているのとの外にはその寄席について語るべき何ものもわたしはもっていない。なぜなら、そこは、わたしが覚えて古い浪花ぶしの定席だったから。