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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

十三

「そりゃああっても好いでしょうが、縁のある人が出合うのだから、強いて求めるわけには行かない。紹介状やなんぞで、役に立つ交際が成り立つことは先ず無いからね」

こんな話をしているうちに、三味線や歌が聞え已んだので、純一は時計を見た。

「もう五時を大分過ぎています」

「道理で少し寒くなって来た」と云って、大村が立った。

鴉が一声啼いて森の方へ飛んで行った。その行方を見送れば、いつの間にか鼠色の薄い雲が空を掩うていた。

二人は暫く落葉の道を歩いて上りの汽車に乗った。

十三

純一が日記は又白い処ばかり多くなった。いつの間にか十二月も半ばを過ぎている。珍らしい晴天続きで、国で噂に聞いたような、東京の寒さをまだ感じたことがない。

植長の庭の菊も切られてしまって、久しく咲いていた山茶花までが散り尽した。もう色のあるものと云っては、常磐樹に交って、梅もどきやなんぞのような、赤い実のなっている木が、あちこちに残っているばかりである。

中沢のお雪さんが余り久しく見えないと思いながら、問いもせずにいると、或る日婆あさんがこんな事を話した。お雪さんに小さい妹がある。それがジフテリイになって大学の病院に這入った。