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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

両国の橋手前で電車を下りて、左へ曲って、柳橋を渡って、高山先生の跡に附いて亀清に這入った。

先生がのろのろ上がって行くと、女中が手を衝いて、「曽根さんでいらっしゃいますか」と云った。

「うん」と云って、女中に引かれて梯子を登る先生の跡を、瀬戸が附いて行くので、純一も跡から行った。曽根というのは、書肆博聞社の記者兼番頭さんをしている男で、忘年会の幹事だと、瀬戸が教えてくれた。この男の名も、純一は雑誌で見て知っていた。

登って取っ附きの座敷が待合になっていて、もう大勢の人が集まっていた。

外はまだ明るいのに、座敷には電燈が附いている。一方の障子に嵌めた硝子越しに、隅田川が見える。斜に見える両国橋の上を電車が通っている。純一は這入ると直ぐ、座布団の明いているのを見附けて据わって、鼠掛かった乳色の夕べの空気を透かして、ぽつぽつ火の附き始める向河岸を眺めている。

一番盛んに見える、この座敷の一群は、真中に据えた棋盤の周囲に形づくられている。当局者というと、当世では少々恐ろしいものに聞えるが、ここで局に当っている老人と若者とは、どちらも極てのん気な容貌をしている。