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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

合って、それでまごついたのである。

「僕が悪うございました。食べたくないと云ったのは嘘です」

「はははは。君は素直で好い。ここの内の飯は旨くはないが、御馳走しよう。その代り一人で食うのだよ。僕はまだ朝飯から二時間立たないのだから」

誂えた飯は直ぐに来た。純一が初に懲りて、遠慮なしに食うのを、大石は面白そうに見て、煙草を呑んでいる。純一は食いながらこんな事を思うのである。大石という人は変っているだろうとは思ったが、随分勝手の違いようがひどい。さっきの客が帰った迹で、黙っていてくれれば、こっちから用事を言い出すのであった。飯を食わせる程なら、何の用事があって来たかと問うても好さそうなものだに黙っていられるから、言い出す機会がない。持って来た紹介状も、さっきから見れば、封が切らずにある。紹介状も見ず、用事も問わずに、知らない人に行きなり飯を食わせるというような事は、話にも聞いたことがない。ひどい勝手の違いようだと思っているのである。ところが、大石の考は頗る単純である。純一が自分を崇拝している青年の一人だということは、顔の表情で知れている。田中が紹介状を書いたのを見ると、何処から来たということも知れている。