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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

象牙の紙切り小刀で、初めの方を少し切って、表題や人物の書いてある処を飜して、第一幕の対話を読んでいる。気の利いた、軽い、唯骨折らずに、筋を運ばせて行くだけの対話だと云うことが、直ぐに分かる。退屈もしないが、興味をも感じない。

二三ペエジ読むと、目が懈くなって来た。明りが悪いのに、黄いろを帯びた紙に、小さい活字で印刷してある、ファスケル版の本が、汽車の振動に連れて、目の前でちらちらしているのだから堪まらない。大村が活動写真は目に毒だと云ったことなどを思い出す。お負に隣席の商人らしい風をした男が、無遠慮に横から覗くのも気になる。

読みさした処に、指を一本挟んで閉じた本を、膝の上に載せたまま、純一は暫く向いの窓に目を移している。汽車は品川にちょっと寄った切りで、ずんずん進行する。闇のうちを、折折どこかの燈火が、流星のように背後へ走る。忽ち稍大きい明りが窓に迫って来て、車ははためきながら、或る小さい停車場を通り抜ける。

純一の想像には、なんの動機もなく、ふいと故郷の事が浮かんだ。お祖母あ様の手紙は、定期刊行物のように極まって来る。書いてある事は、いつも同じである。