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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
岡村はなかなか黙っていない。「いや、奥さん。そうではありませんよ。文学者なんというものは、画かきよりは盛んな事を遣るのです」これを冒頭に、岡村の名を知っている、若い文学者の噂が出る。近頃そろそろ出来掛かった文芸界の Bohmiens が、岡村の交際している待合のお上だの、芸者だのの目に、いかに映じているかと云うことを聞くに過ぎない。次いで話は作品の上に及んで、「蒲団」がどうの、「煤烟」がどうのと云うことになる。意外に文学通だと思って、純一が聞いて見ると、どれも読んではいないのであった。
純一にはこの席にいることが面白くない。しかしおとなしい性なので厭な顔をしてはならないと思って、努めて調子を合せている。その間にも純一はこう思った。世間に起る、新しい文芸に対する非難と云うものは、大抵この岡村のような人が言い広めるのだろう。作品を自分で読んで見て、かれこれ云うのではあるまい。そうして見れば、作品そのものが社会の排斥を招くのではなくて、クリク同士の攻撃的批評に、社会は雷同するのである。発売禁止の処分だけは、役人が訐いて申し立てるのだが、政府が自然主義とか個人主義とか云って、文芸に干渉を試みるようになるのは、確かに攻撃的批評の齎した結果である。