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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

七

嘲の分子なんぞは少しも含まない、温い微笑である。感激し易い青年の心は、何故ともなくこの人を頼もしく思った。作品を読んで慕って来た大石に逢ったときは、その人が自分の想像に画いていた人と違ってはいないのに、どうも険しい巌の前に立ったような心持がしてならなかった。大村という人は何をしている人だか知らない。医科の学生なら、独逸は出来るだろう。それにフランスも出来るらしい。只これだけの推察が、咄嗟の間に出来たばかりであるのに、なんだか力になって貰われそうな気がする。ニイチェという人は、「己は流の岸の欄干だ」と云ったそうだが、どうもこの大村が自分の手で掴えることの出来る欄干ではあるまいかと思われてならない。そして純一のこう思う心はその大きい瞳を透して大村の心にも通じた。

この時梯子の下で、「諸君、平田先生が見えました」と呼ぶ声がした。平田というのは拊石の氏なのである。

七

幹事らしい男に案内せられて、梯子を登って来る、拊石という人を、どんな人かと思って、純一は見ていた。

少し古びた黒の羅紗服を着ている。背丈は中位である。顔の色は蒼いが、アイロニイを帯びた快活な表情である。