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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

わたくしもイブセンに就いて、別に深く考えたことはない。イブセンに就いてのわたくしの智識は、諸君の既に有しておられる智識以上に何物もあるまいと思う。しかし知らない事を聞くのは骨が折れる。知っていることを聞くの気楽なるに如かずである。お菓子が出ているようだから、どうぞお菓子を食べながら気楽に聞いて下さい」

こんな調子である。声色を励ますというような処は少しもない。それかと云って、評判に聞いている雪嶺の演説のように訥弁の能弁だというでもない。平板極まる中に、どうかすると非常に奇警な詞が、不用意にして出て来るだけは、雪嶺の演説を速記で読んだときと同じようである。

大分話が進んで来てから、こんな事を言った。「イブセンは初め諾威の小さいイブセンであって、それが社会劇に手を着けてから、大きな欧羅巴のイブセンになったというが、それが日本に伝わって来て、又ずっと小さいイブセンになりました。なんでも日本へ持って来ると小さくなる。ニイチェも小さくなる。トルストイも小さくなる。ニイチェの詞を思い出す。地球はその時小さくなった。そしてその上に何物をも小さくする、最後の人類がひょこひょこ跳っているのである。