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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
お嬢さん達はすぐに東西の桟敷を折々きょろきょろ見廻して、前より少し声を低めたばかり、大そうな用事でもあるらしく話し続けている。奥さんは良や久しい間、純一の顔を無遠慮に見ていたのである。
「そら、幕が開いてよ」と縹のお嬢さんが菫のお嬢さんをつついた。「いやあね。あんまりおしゃべりに実が入って知らないでいたわ」
桟敷が闇くなる。さすが会員組織で客を集めただけあって、所々の話声がぱったり止む。舞台では、これまでの日本の芝居で見物の同情を惹きそうな理窟を言う、エゴイスチックなボルクマン夫人が、倅の来るのを待っている処へ、倅ではなくて、若かった昔の恋の競争者で、情に脆い、じたらくなような事を言う、アルトリュスチックな妹エルラが来て、長い長い対話が始まる。それを聞いているうちに、筋の立った理窟を言う夫人の、強そうで弱みのあるのが、次第に同情を失って、いくじのなさそうな事を言う妹の、弱そうで底力のあるのに、自然と同情が集まって来る。見物は少し勝手が違うのに気が附く。対話には退屈しながら、期待の情に制せられて、息を屏めて聞いているのである。ちと大き過ぎた二階の足音が、破産した銀行頭取だと分かる所で、こんな影を画くような手段に馴れない見物が、始めて新しい刺戟を受ける。