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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
「瀬戸も来ていますかしらん」
「いたようでしたよ」
「これ程立派な劇場ですから、foyer とでも云ったような散歩場も出来ているでしょうね」
「出来ていないのですよ。先ずこの廊下あたりがフォアイエエになっている。広い場所があっちにあるが、食堂になっているのです。日本人は歩いたり話したりするよりは、飲食をする方を好くから、食堂を広く取るようになるのでしょう」
純一の左の方にいた令嬢二人が、手を繋ぎ合って、頻りに話しながら通って行った。その外種々な人の通る中で、大村がおりおりあれは誰だと教えてくれるのである。
それから純一は、大村と話しながら、食堂の入口まで歩いて行って、おもちゃ店のあるあたりに暫く立ち留まって、食堂に出入する人を眺めていると、ベルが鳴った。
純一が大村に別れて、階段を降りて、自分の席へ行くとき、腰掛の列の間の狭い道で人に押されていると、又 parfum の香がする。振り返って見て、坂井の奥さんの謎の目に出合った。
雪の門口の幕が開く。ヴィルトン夫人に娘を連れて行かれた、不遇の楽天詩人たる書記は、銀の鈴を鳴らして行く橇に跳飛ばされて、足に怪我をしながらも、尚娘の前途を祝福して、寂しい家の燈の下に泣いている妻を慰めに帰って行く。