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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
暇があるからだと云って、長次郎が松葉を敷いてくれた蹲いのあたりを見れば、敷松葉の界にしてある、太い縄の上に霜がまだらに降っている。
ふいと庭下駄を穿いて門に出て、しゃがんで往来を見ていた。絆纏を着た職人が二人きれぎれな話をして通る。息が白く見える。
暫くしゃがんでいるうちに、頭痛がしなくなった。縁に帰って楊枝を使うとき、前日の記憶がぼんやり浮んで来た。あの事を今一度ゆっくり考えて見なくてはならないというような気がする。障子の内では座敷を掃く音がしている。婆あさんがもう床を上げてしまって、東側の戸を開けて、埃を掃き出しているのである。
顔を急いで洗って、部屋に這入って見ると、綺麗に掃除がしてある。目はすぐに机の上に置いてある日記に惹かれた。きのう自分の実際に遭遇した出来事よりは、それを日記にどう書いたということが、当面の問題であるように思われる。記憶は記憶を呼び起す。そして純一は一種の不安に襲われて来た。それはきのうの出来事に就いての、ゆうべの心理上の分析には大分行き届かない処があって、全体の判断も間違っているように思われるからである。夜の思想から見ると昼の思想から見るとで同一の事相が別様の面目を呈して来る。