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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

一言で言えば、ゾラの深く穿って置いた道を踏んで行きながら、別にそれと併行している道を空中に通ぜさせたい。それが裏面の道、背後の道である。一言で言えば霊的自然主義を建立するのである。そうなったらば、それは別様な誇りであろう。別様な完全であろう。別様な強大であろう」そういう立派な事が出来ないで、自然主義をお座敷向きにしようとするリベラルな流義と、電信体の悪く気取った文章で、徒らに霊的芸術の真似をしていて、到底思想の貧弱を覆うことの出来ない流儀とが出来ているというのである。

純一はここまで読んで来て、ふいと自分の思想が書物を離れて動き出した。目には文字を見ていて、心には別の事を思っている。

それは自分のきのうの閲歴が体だけの閲歴であって、自分の霊は別に空中の道を歩いていると思ったのが始で、それから本に書いてある事が余所になってしまったのである。

あの霊を離れた交を、坂井夫人はいつまで継続しようとするだろうか。きのうも既に心に浮かんだオオドのように、いつまでも己に附き纏うのだろうか。それとも夫人は目的を達するまでは、一直線に進んで来たが、既に目的を達した時が初の終なのであろうか。