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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

「天気はこの頃の事さ。外国人が岡目八目で、やっぱり冬寒くなる前が一番好いと云っているね」

「そうですかねえ。どっちの方へ行きますか」

「そうさ。僕もまだ極めてはいないのです。とにかく上野から汽車に乗ることにするさ」

「もうすぐ午ですね」

「上野で食って出掛けるさ」

純一が袴を穿いていると、大村は机の上に置いてある本を手に取って見た。

「大変なものを読んでいるね」

「そうですかね。まだ初めの方を見ているのですが、なんだかひどく厭世的な事が書いてあります」

「そうそう。行き留まりのカトリック教まで行って、半分道だけ引き返して、霊的自然主義になるという処でしょう」

「ええ。そこまで見たのです。一体先きはどうなるのですか」

こう云いながら、純一は袴を穿いてしまって、鳥打帽を手に持った。大村も立って戸口に行って腰を掛けて、編上沓を穿き掛けた。

「まあ、歩きながら話すから待ち給え」

純一は先きへ下駄を引っ掛けて、植木屋の裏口を覗いて、午食をことわって置いて、大村と一しょに歩き出した。大村と並んで歩くと、動もすればこの巌乗な大男に圧倒せられるような感じのするのを禁じ得ない。

純一の感じが伝わりでもしたように、大村は一寸純一の顔を見て云った。