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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

御相談とあれば、僕は保つ方を賛成するね」

純一は少し顔の赤くなるのを感じた。「僕だって保ちたいと思っているのです。しかし貞操なんというものは、利己的の意義しかないように思うのですが、どうでしょう」

「なぜ」

「つまり自己を愛惜するに過ぎないのではないでしょうか」

大村は何やら一寸考えるらしかったが、こう云った。「そう云えば云われないことはないね。僕の分からないと思ったのは、生活の衝動とか、種族の継続とかいうような意義から考えたからです。その方から見れば、生活の衝動を抑制しているのだから、egoistique よりは altrustique の方になるからね。なんだか哲学臭いことを言うようだが、そう見るのが当り前のようだからね」

純一は手に持っていたフォオクを置いて、目をかがやかした。「なる程そうです。どうぞ僕の希望ですから、哲学談をして下さい。僕は国にいた頃からなんでも因襲に囚われているのはつまらないと、つくづく思ったのです。そして腹の底で、自分の周囲の物を、何もかも否定するようになったのですね。それには小説やなんぞに影響せられた所もあるのでしょう。